入院前に用意しておく必要があるのが、限度額適用認定証。
高額療養費制度というもので、手術や入院をした患者が、所得に応じて支払うべき費用を定めたもの。例えば、70歳未満で基礎控除後の所得が210万円以下であれば自己負担額は57,600円までになり、100万円の請求がきたとしても支払いは57,600円になる。そのために病院に掲示するのが、限度額適用認定証だ。
でも、限度額の対象はあくまでも医療費。食事代の標準負担額や差額ベッド代、病衣代やテレビ代なでゃ対象外になる。それは当然だよね。保険代を支払っている人が対象になると言っても、差額分は国がもつわけで、そこまで支払っていたら財政は圧迫されてしまう。医療費だけでも十分にありがたいと思うよ。
5年前の手術の時もこの制度を使っているから、今回も入院前に申請して準備しておいた。7月6日から入院して、8日に手術を終えて8月22日まで入院生活を送った。手術した7月の医療費の請求額だけで120万円以上。独身としてはかなり厚く保険を掛けているが、限度額があることで負担額は相当下がることになる。
前回の手術時にも感じたが、入院生活を送るとこの制度のありがたさが身に染みる。多少の蓄えと保険さえあれば、特に問題なく入院生活を送ることができる。今回の手術は、右肩が左肩に変わっただけだから、過去のファイルから請求額などは事前に計算してあったし、病室には電卓をおいて費用の計算を怠らなかった。
この限度額適用認定証、有効期限が1年間だ。保険証は7月に更新されるから、それに合わせるように更新しなくてはならない。前回のように入院するのが正月明けとかなら、更新時期に重ならないので特に問題はない。今回は7月に入院して8月末頃に退院する予定でいたから、月をまたぐので更新の申請が必要になる。
身内が近くにいれば問題ないが、横浜に住む高齢の両親に頼むわけにはいかない。手術後で固定装具をつけている自分が、市役所まで外出もできない。6月の申請時に、その時の担当者に更新時の手続きの仕方を相談してみたんだ。その方の対応の仕方が的確で大変に親切なものだった。
手術したのは7月8日。今回は左肩だったので、申請のためにペンをとる利き腕は通常通り動く。さらに、入院前に申請書の記入も大方終わっていたから、9日には申請書を市役所に向けて郵送した。6月の申請時に、その担当者の宛名入りの封筒も頂いてあった。ヘルパーさんにポストへの投函をお願いした。
驚いたのは、14日には新しい認定証が手元に届いたということだ。1週間もかからなかった。しかも郵送で届いたわけじゃない。担当者が自ら病院まで持参して下さった。自宅には誰もいないということを6月に話してあって、それを覚えていて下さったわけだ。手術したばかりだったから、なおさら嬉しかったよ。
嬉しいと喜んでいるだけでは、人の道にはずれる。すぐに市役所に電話して、その担当者を呼んで頂いたが、あいにく外出中だった。保険証更新などの忙しい時期でもあったから、電話で言付けをお願いした。その電話口の方も丁寧な方だった。わざわざご丁寧にありがとうございます、ごく普通の言葉でも嬉しかったね。
正直に話すと、20年前の市役所のイメージは非常に悪かった。窓口はいつも暗いイメージがあったし、職員の対応も上から目線で、お役所仕事の王道を行っていた。ここ数年の間に、イメージはかなり変わっていたが、今回の件は格別だった。入院する者に対する細かい気配りが、実に見事だったと思う。
小さく些細なことだと思うかもしれない。
だが人は案外、派手なことよりも、小さく些細なことの方を覚えているもの。派手なことは誰の目にもつくけれど、小さく些細なことは後になって心によみがえってくる。派手なことには心もときめくが、地味なことは時間をかけて人の心を支配する。
ご担当者のご厚意もあり、退院まで無事に過ごすことができた。