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人を見る時は、あくまでも自分の目で。

先日、話をしたセイノー体操。社長室の前にマイクを立て、腕を振りながら、かけ声を繰り返す毎日。間違えれば社長からのクレーム対象になる。新入社員が入ってくるまでは、最低1年間は自分たちが務めを果たす。1日1人の順番で、日曜と祭日以外は感情を捨ててマイクの前で体操を続けた。

翌年の春には、同期の1人が転勤。残った2人で交互に務めていたところへ、新入社員が1人配属された。3年目にも又1人配属されてきた。互いに平日の休みもあるから、完全に引退することは出来ない。時間の無駄を感じ始めていた。体操自体は必要だと考えていたけれど、体操に振り回されることが嫌になっていた。

1年下の後輩と決心した。声をテープに録音してしまおう、と。

*後輩と2人で毎日 メトロノームを眺めた

その日から約1ヶ月上司との戦いが始まった。上司というのは例の、自分にいじめてやるぞと言った上司だ。部長という職でありながら、窓際的なイメージしかなく、厳しい戦いの始まりを感じていたね。とりあえず、体操のやり方を変えてみたい、テープで録音して流したいという提案は通した。

皆さんは、この改革を簡単なことのように思うかもしれない。

でも、それは大きな間違い。何と言ってもこの体操、1代目の時代から同じやり方で行われてきた。しかも、労務課の新入社員の儀式として皆が見ている。ある意味で、楽しみにしているわけ。声をテープに吹き込むってことは、フロアの中心に立つ人がいなくなる。部署ごとに、かけ声を出さない人だけが立つわけだ。

*当時はまだテープを使っていた

そして、何よりも一番難しいのは、かけ声テンポなんだ。速すぎても遅すぎても駄目。誰もが納得できるような速さでなくてはならない。仕事で硬くなった体をほぐすための体操、終わった時に疲れを感じてしまっては意味がない。

この点について、自分と後輩の2人だけで計画を進めるには、まだ経験が浅かったようだ。

何度くりかえし録音したことか。テープに録音するたびに部長にのところへ。テンポが速すぎる、いや遅くなった、声が聴きづらいなどの辛口評価がくりかえされる。あっという間の1ヶ月だったね。後輩は、もう無理ですよと言い始めていた。テープを突っ返されるたびに、イライラも募っていたね。

*録音機器は違うが 録音ボタンを押し続けた

その部長は、社員から嫌われていた人だった。自分もその一人だったと思う。好きにはなれなかった。若輩者の自分の目から見ても、仕事らしい仕事をしているようには思えなかった。それこそが、若さというものかもしれないけどね。

なんとか許可をもらうことができた。テープは完成し、マイクの準備をすることなく体操を行う日を迎えた。

初日は成功だった。そして思った。録音されたペースは、ちょうど良かったと。お世辞とかではなく、部長が許可を出したペースに気持ち良さを感じられた。ドンピシャってやつだ。長年の体操経験から、一番気持ち良く体操をできるペースを、体が覚えていたんだと思う、部長さんは。

曇りガラスを通して部長を見ていたのかもしれない。大企業の部長というポスト、誰もがなれるわけじゃない。何かしら人よりも秀でたことがあったからこそ、その椅子に座っているのだろう。実際にその能力が、通用するものだったのかはわからないが、少なくとも自分たちには良き結果を導いてもらえた。

*ちなみに 今の録音機はこのタイプ

人を評価できるほどの人間ではないが、少なくとも他人の評価だけで結論づけることはやめた方がいいと思う。判断するのは、あくまでも自分自身。その結果が大多数の他者と違っていたとしても、自分自身が考えた結果なら納得がいくはず。可能な限りその判断を信じてみるのも、果ては自分自身のためにもなる。

人を見る時は、あくまでも自分の目で、だ。

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