田中邦衛さんが亡くなった。享年88歳。
昭和生まれの名優がまた一人、逝ってしまった。
自分にとっては、本当に大きな存在だった。寂しさを隠すことはできない。隠すことは逆に、失礼のような気がする。
ドラマ「北の国から」の主題曲を繰り返し聴いていたら、涙が止まらなくなった。なんでこんなにも、親しみを感じるんだろう。田中さんならではの温かい演技を忘れられない
渥美清、三國連太郎、高倉健、菅原文太、他にもたくさんいた昭和の名優たち。映画の世界に彩りを与えてくれた名優たち。映画を見直して、思い出すことでしか、もう会えなくなってしまった。新しい作品は、二度と生まれてくることはない。
そんな中で、田中さんは脇役としてのイメージが強い。かの有名なドラマ「北の国から」では主役的な立場だったが、映画の中ではほとんど脇役だったと言ってもいい。それでも主役と同じくらいの存在感があったのは、一体なぜだろう。
演技自体は地味そのもの。街中のどこにでも歩いているようなおじさん、そんな演技だった。その地味さが素晴らしかったんだ。その地味さが、普通に思えた。普通に思えるとういうことは、演技が美しいってことなんだと思う。
派手なことをしなくても演技が美しい。俳優の醍醐味ってこういうこと、自分はそう思うんだよね。
数々の賞を得た映画「学校」。監督は山田洋二。「男はつらいよ」シリーズをはじめとして、数々の名作を送り出した名監督だ。一昨年も、満を持して「男はつらいよ」第50作目を公開した。寅さんはいないが、吉岡秀隆が演じる満男の最後の言葉に、深く胸をうつものがあった。
その監督がバブル崩壊後に送り出した「学校」。この中での田中さんの演技は本当に素晴らしい。「学校」全体の流れも素晴らしいんだけども、田中さんのための映画じゃないかと思えたぐらいだ。その演技に見とれ、あらためて惚れこんだ。
どちらかと言えば「北の国から」は主役であるけれど、そうじゃない気もした。中心人物なんだけど、周囲の人間を盛り上げていくための存在に思えもした。
田中さんの演技は、きっと生き方そのものだったと思うんだよ。
勝手な想像なんだけど、作ってできる演技ではなかった気がする。もしそうだったとしたら、この方は神様だ。それぐらい自然だと感じられる演技だった。思い出すだけで、温かな気持ちになっていける。
その2では、この映画「学校」について話してみたい。