映画「学校」。夜間中学を舞台にしている。
そもそも夜間中学って何?
簡単に言えば、公立の中学校の夜間学級のことだ。
戦後に義務教育を終了できなかったような方たち。本国で義務教育を終了せずに、日本で生活を始めた外国籍の方たち。あるいは、不登校などの理由で十分に学校に通えなかった方たち。通う理由は様々。学びなおしの場の役割もになっている。
そんな生徒たちのひとりを、田中さんは熱演する。授業の途中でオグリキャップを語るイノさん。目の前で競馬を見ながら、実況中継をしているような雰囲気がすごい。
先生の話を真面目に聞けと、紙をまるめて頭をたたく。真面目なひとりの生徒として。親身になって教えてくれる先生に、恋心をわかせる。青春のあまずっぱい雰囲気を隠しきれない、純情な一面をさらけ出す生徒として。自分が中学生だった頃そのもの。
イノさんは字を書けなかった。だから、手紙を書いて送るって課題のために、文字一つ一つに定規を当てて曲がらないように書いていく。送る相手への誠実さがにじみ出る。その手紙が着いたことに、表情をくずして喜ぶ。田中さんはすでに中学生そのもの。
先生に手紙は届いたが、想いは断ち切られた。抑えきれない感情を前に、オモニに殴られ説教される。さらには、店の大男にかかえられて、雨の中に放り出される。反抗的な中学生と酔っぱらいのおやじを同時に演じる。その演技の迫力に圧倒される。
進行性の病気だとわかり入院する。イノさんは、人生で初めての幸せを感じたのかもしれない。やがて、故郷の山形に帰ることになる。その道中、東京を自分の目にやきつけていく。
このシーンを見ていると、いつか自分もこんなことになんて思いもする。ひとり身の自分にはなおのこと、なんど見ても胸にせまるものがあるんだ。東京が見納めだとわかっていたんだろうな。
そう思わせる演技だった。
イノさんは亡くなった。仲間の生徒たちの中で、修学旅行ではしゃぐイノさんが思い出される。心から楽しんでるって感じでしょう?演技が上手いってレベルじゃないんだよね。この人はこの時、本当に中学生だったんだ、自分は今もそう思っている。
この映画だけでも、語りつくせない田中さんがたくさんいる。頭の中に残る作品を語ったら、話を終われない。今日はとりあえず、ここまで。これ以上書くと、涙も止まらない。
田中邦衛さん、本当にありがとうございました。
そして長きにわたり、お疲れ様でした。
どうか、お浄土よりお導き下さい。